朝の災難

「おっはよーございま、すううううう!?」
元気よく朝の挨拶をした朝日奈の声が、見事に途中で裏返った。
開けられた扉の先には、今正にスリッパを履こうとしていたらしい刑部の姿と、そしてその先に桐ケ谷の姿があった、わけだが。
桐ケ谷の格好が問題だった。
物の見事に浴衣が乱れに乱れまくっている。左肩なんてモロに浴衣が脱げてしまっていた。
帯も解けかかっているし、どんな寝相をしていればそうなるのかと総ツッコミ間違いなしの有様だった。
流石の朝日奈唯であっても、それは咄嗟に目を覆ってしまうものである。
「ヤダ、朝日奈さん大胆。エッチ」
そして桐ケ谷といえば、突然の訪問者に目を丸めた後、ニヤリと笑って自分の腕で自分の体を隠したのだが───そんな桐ケ谷の頭に、斜め45度から超高速で落とされるものがあった。
スパアァアァァァン!とけたたましい音が部屋に響く。
「いっっっっでえ!!」
直後に響いたのは桐ケ谷の悲鳴。朝日奈が目を瞬かせている間に、それまでの余裕はどこへやら、桐ケ谷は頭を押さえてしゃがみこんでいた。
「おい、何すんだ刑部!」
「とっととその見苦しいものを仕舞え。阿呆が」
痛みを堪えながら、桐ケ谷の目が目の前の男を、刑部を睨み上げる。刑部の手の内にはいつのまにかスリッパが握られていた。それから、すぐに朝日奈の視界が刑部の体によって塞がれる。
睨み上げられても痛くもかゆくもないらしい。冷ややかであり、且つ本気が滲むドスの効いた一言が落とされる。
朝日奈が恐る恐る見上げると、振り返った刑部がにこりと微笑んだ。
「すまないね朝日奈さん。こんなバカは放っておいて出ようか」

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